ドリーム小説


ーティはこれから

 迎えたハロウィンパーティ当日。
 緑間くんの家で開かれることになったささやかなパーティは夕方頃からだ。それに合わせて、私と赤司くんは新幹線に乗って東京へと向かうことになった。

「本当に良かったのか? プライベートジェットでも用意することは出来たんだぞ?」

 そして、私は赤司くんの家の裕福さを実感することになる。
 まず2人で東京に向かうに当たって、一体何を利用して東京に向かうかが私たちの間で議論になった。
 私は新幹線、よくて飛行機かと思っていのだが、なんと赤司くんは私に負担をかけさせたくないと言ってプライベートジェットの利用を提案してきたのだ。
 さすが赤司家、と思わず呟いてしまった私は当然の反応だと思う。普通、庶民はプライベートジェットになんか乗らない。それなりの家柄である私だって乗ったことはない。
 もちろん東京に行くだけなので、それは丁重にお断りをした。しかし新幹線に乗った現在でも、まだプライベートジェットの件を話に出してくる辺り、赤司くんとしてはプライベートジェットを使うことを前提に最初から話していたことが伺える。

「大丈夫だよ。私、新幹線好きだから」
「そうか……」

 少し言葉尻を落として言った赤司くんに気づいて、もしやと思う。

「あ、でも、赤司くんはプライベートジェットの方が良かった?」

 ちょっと考えてみれば、赤司くんにとってはプライベートジェットを使うことは当たり前のことなのでは?
 となると、新幹線という乗り物は不快に感じるものなのだろうか。

「いや、オレはどちらでも。きみがいいと思った方であればそれでいいよ」

 私の心配事に気付いたであろう赤司くんは頭を横に振って、安心させるように笑った。

「なら、2時間ちょっとだけど、新幹線の旅を楽しもう!」
「ふふ、そうだね」

 そうして私たちの東京への、ちょっとした旅行が始まる。
 と言っても何かする訳でもなく、ただ景色を見たり、お話ししたり。

「あ、赤司くんは何か持ってきた?」
「オレは紫原に頼まれた京都限定の菓子くらいかな。あとはいつも持ってる小説だったり、……あ、」
「?」
「黄瀬からもしかしたらバスケをやるかもしれないと言われたから、運動できる服と靴も持ってきたよ」

 楽しそうに笑う赤司くんを見て、キセキの世代のみんなは本当にバスケが好きなんだなと実感する。休みの日でさえバスケをやりたいと思う辺り、彼らのバスケへの情熱が伺えた。

「本当に好きなんだね、バスケ。そこまで夢中になれるものがあるなんて、ちょっと羨ましいかも」
「ならもやってみるかい、バスケ」
「え?」

 予想だにしていなかった赤司くんの言葉に戸惑う。その言葉はありがたいが、残念ながらそれは叶わない。

「え、いや~、私球技苦手で……」
「そういえば体育の授業でも盛大にこけてたね」
「なんで知ってるの!?」

 その通りである。
 私は運動神経はどちらかというといい方である。しかし、何故か球技はできない。球技だけができない。それはバスケも例に漏れず、この前学校の授業でバスケを行った際にはドリブル中にボールを足元に転がしてしまい、それに自分で躓いて、盛大な音と共に転んだのである。
 そのことを思い出して、思わず顔をしかめていると、赤司くんはくすりと笑った。

「赤司くん、私真剣に悩んでるんだけど……」
「すまない。思い出すと、少しおかしくて」
「……あれでも頑張ってドリブルしてたんだけどな」

 どうしてバスケ選手は走りながら、ボールを床につくという行為ができるのだろうか。
 私には無理だ。
 あれができる人はおかしいと思う。普通に考えて、そんなことを同時になんてできるわけない。

「少し見ていたけど、は肩に力が入りすぎていると思うよ。もう少し気楽にやれば、上達すると思う」
「う~ん、でもなぁ」
「オレで良ければ教えるよ」
「え?」

 好きな子と一緒にバスケができるなんて、一石二鳥だな。
 なんて、笑って。
 ぐっと顔を近づけられて、私は顔を勢いよく逸らす。赤司くんの笑いが耳に届く。その楽しげな笑いにムッとした。
 というか、最近赤司くんは、

「赤司くん、私の反応見て楽しんでるでしょ」
「あぁ、バレてしまったか」
「……隠す気もないくせに」

 これは赤司くんと婚約してから見えてきた彼の一面。案外、悪戯っぽい人なのだ。
 もう! と思わず彼の肩をぽかと叩いた。全然力は入っていなかったし、全く彼のダメージにはなっていない。それどころか赤司くんにその手をそっと取られてしまう。

「赤司くん?」
「ん? これくらいいいだろう?」

 そう言って赤司くんは私の手をぎゅっと握りこんだ。大きな手に包まれた自分の手が熱くなっていることに気付きつつ、でもそれをどこか心地よくも感じていた。

「……さっきの話だけど、」
「?」
「私はバスケをするよりも、バスケをしているみんなを応援したいから」
「……あぁ」
「だから、赤司くんは私のことじゃなくて、自分のことに集中してくれればいいよ」

 私は自分が何か主体となってすることよりも、誰かの手伝いをすることの方が昔から好きだった。それは会社経営をしている家の娘としてはあまり褒められた性格ではないらしく、よく両親にもっと主体的になれと言われたものだ。でも、それは高校生になっても変わらない。今はバスケ部のみんなが大会で少しでも気持ちよくプレイできるようにサポートすることが、私の楽しみのようなものなのだ。
 しかし私の言葉を聞いた赤司くんは少し寂しそうに瞳を細めて、空いている手で私の頭を撫でた。

の言葉はすごくありがたいし、頼もしいが、……婚約者としては悲しいものだな」
「あ、そんなつもりで言ったんじゃ、」
「あぁ、分かっているよ」

 赤司くんは頷いて、私の手を握っているその手に微かに力をこめた。

「これからもよろしく頼むよ」
「うん、任せて!」

 私が勢いよく頷くと、赤司くんは笑みを深めた。





 そして、何気ない会話を続けていると、いつも凛とした口調の赤司くんの言葉が段々とゆっくりになっていっていることに気がついた。続けて、私の肩に少しの重み。
 驚いて横を見ると、赤司くんが瞳を閉じて、すぅすぅと規則の正しい寝息を立てながら熟睡していた。

「お疲れかな、赤司くん」

 ここのところウィンターカップに向けて、練習量がさらに増えた。ただでさえ、洛山の練習量は強豪校に相応しく多いものだ。溜まり続けていた疲労がいつ爆発したっておかしくない。
 赤司くんは主将として、チームメイトの前で決して弱みを見せない。以前のような近寄りがたい完璧超人のような雰囲気はなくなったものの、それでも彼は強い人としてチームメイトを率いている。
 その強さが、反対に疲れを増やす原因の一つにもなっていることは確かだろう。
 彼は自分のことを人に頼ることが苦手な人間だと称したことがある。それは事実で、実際今年のインターハイのあと、高熱を出して一度ダウンしたことがあった。それもチームメイトには知らせておらず、休日2日間を使って彼は体調を正常に戻した。私がこのことを知っているのは、電話越しの彼の声がいつも聞く声と違うと感じて、赤司くんを問い詰めたからである。あそこで粘らずに諦めていたら、熱で苦しんでいる赤司くんをほったらかしにしているところだった。
 それ以降、体調を崩したら絶対に私に伝えてくれと彼には言った。最初はあまりいい顔をされなかったけれど、婚約者としてあなたのことが心配なのだと伝えると、困ったように笑って頷いてくれた。
 それでも彼は無意識的に無理をしてしまうところがあるから、私の隣でこうやって安心して眠りについてくれて、少しでも疲れを取ってくれるのなら嬉しい。
 私が赤司くんにできることは限られている。
 彼に与えられるだけ与えられて、私が何も返せないのは嫌だ。気持ちの面でも、こう言った面でも。
 だから、どうかゆっくり休んでほしいと、私はそっと彼の手を握り返した。

「おやすみなさい、赤司くん」



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Title By エソラゴト。